1.ホワイトペーパーとは
「白書」が原義のBtoBマーケティング用途の資料
ホワイトペーパーは、BtoBマーケティング用語としては自社製品の導入を検討する可能性のある潜在顧客や見込み顧客のエンゲージメント強化を目的に、有益な情報を解説した資料を指します。ただし、もともとは政府や公的機関などが発行する特定のテーマやその調査結果を報告・解説した資料(白書)が原義です。
ホワイトペーパーは、今日のBtoBにおけるデジタルマーケティングやコンテンツマーケティングとの親和性が高く不可欠のコンテンツとなっています。
広義にはマーケティング活動で見込み顧客へアプローチするための資料全般を指すこともありますが、狭義には、「白書」という和訳が示すように、マーケティング用途の資料のうち業界動向や技術、企業の業務課題といったテーマに対して中立的な視点にて解説するテキスト主体の資料を指します。
※ホワイトペーパーの定義を知りたい方は「突き詰めて考える、ホワイトペーパーの定義と本質な意味」にて詳しく解説しているのでご覧ください)
製品資料との違い
ホワイトペーパーは、製品カタログやパンフレットなどの製品資料と比較されます。それらの最も大きな違いは目的です。
製品資料は企業の視点から製品の優位性や機能を紹介するものであるのに対し、ホワイトペーパーは読者視点で読者に役立つ情報を提供することを目的としています。
製品説明や自社の訴求をホワイトペーパー内に含むこともありますが、それが資料に占める割合はわずかであり、資料の目的ではありません。
コンテンツ内容は「ホワイトペーパーの種類」の項にて後述しますが、一般的にはテーマに関する業界背景や業務課題、解決方法、解決技術、ノウハウ、事例などを解説するパターンが多く見られます。
Eブックとの違い
ほかに、ホワイトペーパーと比較されやすいのがEブックです。Eブックも、名の通り「電子書籍」が原義ですが、BtoBマーケティングでは、ホワイトペーパーと同様に見込み顧客に対して自社へのエンゲージメントを強化を目的として提供する読み物の資料を指します。
ホワイトペーパーは「白書」のようなシンプルな体裁のものを指して呼ぶことが多く、またページ数が少ないものもホワイトペーパーと呼ばれます。
一方でEブックは、その原義が示すように比較的ページ数が多いものを指したり、ホワイトペーパーよりも体裁に工夫を凝らしたものを指したりするケースが多いです。
ただし、現実的には企業によって解釈が異なり、デザインの凝ったホワイトペーパーやページ数の少ないEブックも存在するため、上記の違いはあくまで目安です。その差を厳密に気にする必要はほとんどありません。
2.ホワイトペーパー制作のメリットと目的
ホワイトペーパーはBtoBのデジタルマーケティングや営業活動に有用なツールです。ここでは、企業がホワイトペーパー制作する目的やメリットについて解説します。
リード獲得(リードジェネレーション)の資料として
BtoBにおけるデジタルマーケティングの取り組みにおいて特に重要な活動が、リード(見込み顧客)情報の獲得であり、ホワイトペーパーはしばしばそのために活用されます。
企業は、Webサイト上に有益なコンテンツを掲載しダウンロードしてもらうのと引き換えにダウンロードしたリードの情報(氏名、会社名、部署名、メールアドレスなど)を獲得して営業アプローチするリストを拡大していきます。
この「ダウンロードしてもらう有益なコンテンツ」の代表例がホワイトペーパーです。
もちろん、自社商材訴求に必ずしもつながるとは限らない資料をダウンロードしたユーザーは、その後自社の顧客に短期的には発展しないことも多いです。そのため、そうしたユーザーに向けた資料を用意するのは、一見すると非効率のように思えるかもしれません。
しかし、はじめから自社に関心のあるリードを大量に獲得するという考え方は、理想ではあるものの決して容易ではありません。
そのため、まずはリード獲得の仕組みを設けてリード情報をたくさん集める、つまりアプローチ対象となる母数を集めてから、後述するリードナーチャリングを組み合わせて商談に結びつきそうなリードを抽出していくアプローチが、近年のBtoBマーケティングでは一般的です。
ホワイトペーパーは自社のコーポレートサイトや製品サイト、キャンペーン用のランディングページに掲載したり外部のWebメディアに掲載したりなどさまざまなパターンがあります。
多くのWebメディアが、企業の資料を掲載してリード獲得を促す有償サービスを提供しています。
リード育成(リードナーチャリング)の資料として
ホワイトペーパーはリードナーチャリングにも有効です。
リードナーチャリングとは、獲得したリードへすぐに営業アプローチをかけるのではなく、定期的にメールなどを配信して情報を提供したりインサイドセールスがヒアリングを行ったりしながら、リードとの関係構築を図ったり、アプローチするタイミングを見極めたりする手法です。
このリードナーチャリングにおいてリードに提供する「有益な資料」として案内・送信するのにホワイトペーパーが用いられます。
ここにはいくつかの目的があります。1つに、リードの関心度を計測できるということです。
例えばメールでいくつかのホワイトペーパーを案内し、2種ダウンロードしたリードと、1つもダウンロードしなかったリードがいたとします。当然前者のリードのほうが自社に対する関心度が高く優先して営業アプローチする対象だと判断できます。
もう1つは、定期的な関係構築です。リードは獲得時点で「今すぐ客」ではなかったとしてもメール送付などの何らかの形でつながり、ひいては有益な資料を提供する会社と認識してもらうこともできるでしょう。
それにより、その見込み顧客が数カ月後に製品を本格的に検討したときに、自社を第一想起してもらえる可能性が高めることができます。このようなリードとの定期的な関係構築と興味喚起のツールとしてホワイトペーパーは有効なコンテンツです。
スムーズな営業活動の資料として
ホワイトペーパーは、自社に対する興味・関心がまだあまり強くない潜在層に対するコンテンツとして利用されることが多く、商談フェーズでクロージングに持っていくためのメイン資料には使えませんが、営業が顧客と会話する上で間接的に役立つでしょう。
ホワイトペーパーをマーケティング活動の中で提供していれば、顧客が事前にどのようなホワイトペーパーを読んでいるのか、どのようなことを知りたがっているのかを営業担当者が顧客のニーズを把握することができます。
これにより、顧客の事前情報を理解したスムーズや商談や適切な提案活動を進めることができます。
3.ホワイトペーパーの種類
ホワイトペーパーは、内容はいくつかのパターンがあります。一般的によく作成される代表的な型を紹介します。
1.業務課題解決型
顧客が抱えている業務課題を整理し、その解決策となる技術およびその活用の仕方、解決のステップを解説するものです。例えば「リモートワーク時におけるコミュニケーション不足を解消するチャットツールの解説」などのようなテーマが考えられます。
顧客が抱えている課題に応える特定の技術を解説し、それを自社の製品やソリューションと紐づけて解説することで自社訴求にもつなげやすい型です。
言い換えれば、「製品資料よりももう少し潜在層側にフォーカスしたコンテンツを作りたい」というニーズを満たすコンテンツであり、ホワイトペーパーの中でも制作例が多い型です。
上記の例に示したように、「チャットツール」など特定の製品に誘導する場合もあれば、「建設業の人手不足解消に寄与する最新のデジタルツール」というテーマのように、業務課題を起点にしつつも、必ずしも自社の商材に結びつかない複数の選択肢を解説する場合もあります。
前者の場合は、自社の訴求につなげやすいことから自社への検討度が高いリードに、後者の場合は、自社を含む複数の選択肢も踏まえて製品を検討しているリードに向けたものとなります。
2.用語解説型
例えば「インボイス制度の概要と対策方法」というテーマのように、特定の用語やトピックを解説するものです。
もちろん、トピックの単なる説明だけの資料ではなく、それに付随する企業への影響、またその回避策、解決策の提示までを含むことが一般的であるため、厳密には1つ目に挙げた「課題解決型」の一部ともいえます。自社に関連する業界用語・技術用語やトピック、バズワードの正しい理解を読者にもってもらうことを目的とします。
3.業務ノウハウ型
「オンライン会議の生産性を向上するための5つの手法」、「クラウドサービス利用のコストを削減する方法」などのテーマのように、読者が業務を進めるうえで役立つ情報を提供するホワイトペーパーです。
広義に言えばこちらの型も業務課題を解決するためのものと言えますが、概念的な解説よりも、具体性があり実際の業務に役立つことを重視した内容といえます。テーマによっては自社の製品訴求に直接的につながらないかもしれませんが、読者にとって実用度と有益度が高いコンテンツです。
4.選定ガイド型
顧客がソリューションや技術を選定する際に気をつけるべきことなどを解説することで、顧客がスムーズかつ適切な判断で製品選定できるように支援するためのものです。例えば、「営業支援システム(SFA)を選定する際に着目するべきポイント」などのテーマが考えられます。
製品ジャンルによっては、市場には多くの事業者から製品・ソリューションが提供されています。そうした中で「製品ごとの違いが分かりづらい」「どのように絞り込んだらよいかわからない」という悩みを抱えている企業に対して有益な情報を提供することができます。
5.市場調査レポート型
特定の業界・市場を取り上げてアンケート調査・分析した結果をまとめます。例えば経理業務向けのソフトウェアを提供している会社が、「コロナ禍における経理業務のリモートワークの実態調査」のようなテーマのコンテンツを制作するイメージです。
この種のホワイトペーパーは、制作においてアンケート調査費用がかかりますが、内容の独自性が高く、資料の有益度が高くなります。
課題解決型ホワイトペーパーのように、自社の訴求に結びつけてその後の商談につなげることを目的とするものではなく、どちらかといえば有益な情報を提供して興味を持ってもらい幅広くリードを獲得することを目的としたものです。
6.活用事例・ユースケース型
自社製品・サービスを実際に導入して業務に利用している企業の実例や活用シーン、使い方をまとめたホワイトペーパーです。
1社の内容にフォーカスしてストーリー性をもたせたコンテンツは「導入事例記事」として制作されますが、複数の事例やユースケースをまとめて解説したいという場合はホワイトペーパーとしてこの型で制作されます。
4.ホワイトペーパーの体裁や特徴
テキスト主体の体裁でページ数が多い
ホワイトペーパーはBtoBマーケティングの文脈では定義が幅広く、企業によってかなり差があることを指摘しました。しかし、ある程度の傾向や共通点があります。
1つに、内容をしっかり読んで理解してもらうために、文章中心の体裁を取っているケースが多いことです。
マーケティング用のコンテンツは、「記事」のように文章で理解するものと、「チラシ」や「パワーポイント資料」のように要点を視覚的に伝えてサマリーを理解してもらうものがありますが、ホワイトペーパーは前者の部類に属するものです。
文章から理解を深めてもらうことを目的とすることが多いため、ページ数も一般的には最低でも4ページ以上、長いものでは10、20ページ以上に及ぶことがあります。
印刷物の場合は、印刷の都合上4ページや8ページなど切りの良いページ数にする必要があります。しかし、昨今のペーパーレスの風潮もあり、PDFファイルでPC上などにて閲覧してもらうことを目的とするホワイトペーパーの制作も増えてきました。
こうした場合、ページ数を厳密に気にせず制作する企業も多く見られます。
適した体裁は内容や製品によって異なる
もちろん、ページ数や体裁はあくまで一般的な傾向であり、伝えたい内容に応じて体裁やページ数は作り分ける必要があります。
わかりやすいテーマや技術、製品を不必要に理屈的に長々しく文章で解説する必要はなく、むしろチラシ的な作り物のようにビジュアルを重視したり、要点のみを簡潔に伝えて仕上げたほうが効果的な場合もあります。
一方で、前提となる業界背景が複雑であったり、直感的に有用性が把握しにくかったりする技術や製品の場合は論理的に筋道を立ててしっかりと文章にて解説する必要があるでしょう。
情報収集する人に向けて有益なコンテンツを届ける上で重要なのは、多くの有益な情報を効率的にインプットしてもらうことです。
シンプル過ぎてもよくありませんが、不必要な情報を長々しく載せても意味がありません。そのため、伝えたい内容や目的、読者層、自社の製品特性に合わせて効果的な編集・デザインが求められます。
5.ホワイトペーパー制作の手順
一般的なホワイトペーパーの制作手順は次の通りです。
ターゲットと目的の決定
まずはホワイトペーパーの目的を明確化します。一般的には自社のWebサイトやペイドメディアの有償サービス上に掲載してダウンロードしてもらうなど、一言でまとめてしまえば「リード獲得」が主目的であることが多いでしょう。
しかし、リードにもさまざまなフェーズが存在します。自社への検討度が比較的高そうな層を狙うのか、すぐに商談に結びつきにくい可能性はあるが、幅広く浅いリードをたくさん取りたいかによって作り方は変わってきます。業界など一部のターゲットに絞ったコンテンツを作る場合もあります。
「せっかく作るならなるべく多くの人をカバーできるように」とついつい考えたくなりますが、ターゲットを絞る方が訴求力は高くなります。
実際にコンテンツマーケティングに力を入れる企業は、用途に応じて多くのホワイトペーパーを作っています。制作には費用や労力はかかりますが、なるべく多彩なバリエーションのホワイトペーパーをつくるべきです。
すでに複数のホワイトペーパーを制作している場合は、自社のコンテンツの棚卸しを行い、自社の見込み顧客のカスタマージャーニーを照らし合わせながら、どのコンテンツが足りていないかといった視点から考えるのもよいでしょう。
テーマの決め方として、すでにホワイトペーパーが豊富に存在しない企業の場合は、案件化したい自社の商材を起点に、想定される見込み顧客の情報収集ニーズを満たすテーマを選定していきます。顧客の業界、または業界全体でトレンドになっているものと紐づけられれば、読者を引き寄せやすくなります。
テーマの肉付けと制作会社との調整
テーマが決まったら、コンテンツ制作会社(またはライターやデザイナー)と制作の打ち合わせを行います。制作会社とスムーズにやり取りするには、以下の情報はある程度固めておきましょう。これらは制作会社が見積もりを作成するために必ず必要な項目です。
1. ページ数(文字数の目安)
2. 希望納期
3. もしあればデザインのイメージ、トーン&マナー
4. 納品ファイル形式
5. 骨子・構成案などの制作の有無
6. 執筆の際の参考資料(取材ができるのかどうか)
ホワイトペーパーを制作依頼するには、事前に骨子や構成案など流れをすり合わせることが重要です。
骨子や構成案は自社で作成する形でも、制作会社に提案してもらう形のいずれでも問題ありません。自社の中で作りたい明確なイメージがあったり、制作者があまり自社の事情や業界に詳しくない場合は自身でつくることをおすすめします。
もちろん、完全に自社で作り込むのも手間がかかってしまいますし、丸投げして制作会社が困ってしまうこともあるので、骨子や企画概要を自社にて検討し、それを制作会社に広げて構成案として広げてもらうなど、協力して制作するのが良いでしょう。
なお、ページ数が少なかったり、既存のウェビナーや提案書の資料のようにストーリーがすでに存在する資料をベースにホワイトペーパーを作る場合は、事前に骨子を必要とせずに制作できることも多いです。
構成案をすり合わせたら、実際に原稿を執筆する作業に取り掛かってもらいます。取材した内容をもとに執筆する場合もあれば、ライター側の知識やリサーチ、すでにある資料などを参考に作成できる場合もあります。これは制作会社とどのように進める必要があるのか相談して決めていきます。
ただし、読者にとって有益度の高いコンテンツを作るには、自社が持つ知見や見解をコンテンツに取り入れることが重要であるため、なるべく取材の場を設けたほうがよいでしょう。(ホワイトペーパーを効率的に作る方法については、「ホワイトペーパーの手軽な作成方法――おすすめの作り方6選」の記事もご覧ください)
ホワイトペーパーのデザインについては、原稿ベースの初校が上がり内容が概ね確定したあとにデザイナーへ依頼します。デザインについては、後述するようにテンプレート化や次回以降への流用を見据えて作成するのも有効です。
フォーマットやテンプレート化がおすすめ
このように、ホワイトペーパー制作にはいくつかの工数が存在しますが、1つひとつのコンテンツに都度オリジナルのデザインを作成していると時間や費用がかかってしまうことがあります。
そのため、ある程度は共通のデザインテンプレートやフォーマットを作成しておくこともおすすめです。
ただし、体裁がすべて似てしまって紛らわしくなったり、Webサイトにサムネイルを掲載するときに同じように見えてしまったりしてしまうので、表紙のデザインやアイキャッチ画像はその都度固有のものに変更することを推奨します。
ホワイトペーパーのテンプレートとしては、大抵の場合はA4サイズで作成され、印刷物の向きとして一般的な縦型で作る場合と、PC画面上で閲覧するのに適した横型で作成する場合があります。リード獲得など訴求効果の観点からは大きな違いはありません。自社での使いやすさで決めると良いでしょう。
制作するファイル形式としては、フォントや文字組みなどのデザインの美しさを優先し、自社内で修正作業を行う前提がない場合はAdobeのInDesignやIllustratorで制作することが多く、汎用的なフォントとソフトを用いてもよいから自社であとで手軽に修正したいという場合はPowerPointなどで作成します。
まとめ
ここまで触れたように、ホワイトペーパーは、BtoBマーケティングにおける基本的かつ効果的なコンテンツであり、特にデジタルマーケティングに積極的に取り組む企業が多く制作しています。
自社製品をアピールすることを目的とした資料ではありませんが、見込み顧客へ役立つコンテンツを提供することで自社へのエンゲージメントを高めたり自社製品を正しく検討してもらう知識をつけたもらったりする上で有効であり、自社製品の案件獲得に間接的に貢献できます。
内容によっては、マーケティングのうち顕在層・準顕在層・潜在層などさまざまなターゲットにアプローチできるコンテンツとなるので、自社のマーケティング施策の課題やコンテンツのラインアップを踏まえた上で、まずはしっかりとターゲットや目的を決めてから制作を行いましょう。
重要なのは、ホワイトペーパーは必ずしも自社の商材に直結する内容ではないために、ホワイトペーパーによって獲得したリードは、自社製品資料をダウンロードしたリードと比べて短期的な案件化の確度は低いということをまず認識しておくべきです。
言い換えれば、ホワイトペーパーは単発的な施策ではなく、リードナーチャリングやその後のインサイドセールス、営業活動など全体的な施策の一環として考えることが必要です。
ノーバジェットでも、IT業界のお客様を中心にこれまで数多くのホワイトペーパー制作のご相談を受けてきました。原稿・デザイン制作はもちろん、ホワイトペーパーを用いたメディアのリード獲得施策・媒体選定まで一気通貫してご提案できますので、お気軽にご相談ください。